杵築衆怪異始末
龍——むくろ——骸
歳を喰われても、あたしは討つ。
あらすじ
大正十年初夏、東京下町。龍に何かを抜かれ、その跡に怪異を宿した者を龍骸と呼ぶ。
浅草の稲荷神社に詰める杵築衆の討つ者・千代も、その一人である。龍骸になる前の記憶と、痛みとを失った。金剛力士の剛力を振るえば、身のうちに障りが溜まる。それを白い虎のような龍・珠に抜いてもらうたび、千代は歳を喰われていく。
煮売り屋の噂、活動写真館の弁士の名調子、どじょう屋の熱燗。賑やかな下町に持ちこまれる怪異騒ぎを、千代は組の仲間とひとつずつ始末していく。だが、その騒ぎは回を追うごとに、陰を濃くしていくのだった。
小説家になろう・カクヨムでの掲載を準備しています。
読む前の手引き
- 龍骸
- 龍に何か(記憶・感覚・声・影など)を抜き取られた者。抜かれた跡には怪異が寄り、放っておけば、やがて怪異そのものに変ずる。
- 杵築衆
- 出雲のお社を総本山に、龍骸を相手にする者たちの集まり。土地ごとに「組」があり、千代たちは浅草・下谷を受け持つ東京三番組。組の者も、もとは拾われた龍骸である。
- 三職
- 寄ったばかりの怪異を引き剥がす剥ぐ者、怪異と変じたモノを討つ討つ者、龍骸を保護する護る者。
- 障り
- 怪異の力を宿した者のうちに淀み、溜まりつづけるもの。力を振るえば早く溜まる。龍に抜いてもらうほかなく、その代価は龍によって寿命であったり、歳であったりする。
登場人物
稲荷神社の人びと
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討つ者/白い龍
千代と珠
千代は浅草の稲荷神社に詰める討つ者。龍骸になる前の記憶と痛みを失い、錫杖を手に金剛力士の剛力で怪異を討つ。おきゃんでハイカラ、縞の銘仙に足もとだけ編み上げの靴。連れ歩く珠は、虎縞のない真っ白な大きな獣で、動いても鳴いても音を立てない。千代の障りを喰い、そのかわりに千代の歳を喰う。
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剥ぐ者
清一
ひどく寡黙な、がっしりした男。足もとの影が黒い犬の形に伸び、龍骸に寄った怪異を、皮を剥ぐようにひと続きに引き出す。千代の傷には、本人より先に気づく。
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稲荷神社の宮司
宮司
人の目には四十がらみの、ごく当たり前の神職に見える。けれど龍骸の目で見ると、その左半身は薄墨を流したような煙でできている。物腰は丁寧で、組の者に仕事を割りふる。
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討つ者
静子
数え十六。「よくってよ」の女学生ことばで話すお嬢さん。毛羽毛現が寄り、腰の下まである黒髪で刺し、縛り、切り刻む。千代を「千代さま」と慕う。
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討つ者
武雄
天狗が寄った、べらんめえ口調の煙草のみ。神鉄の鉄扇をひと煽ぎすれば、つむじ風が立つ。毎朝、天狗さまに手を合わせてから一服する。
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討つ者
正三
数え二十二。手のひらに青白い鬼火を灯す。古い木造の建物では、宮司に鬼火を控えるよう言われている。静子にはよくからかわれる。
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護る者
ハル
狐が寄り、鼻が利く。切れ長の目で、口が減らない。千代が無茶をして帰るたびに、傷の手当てをしながら小言を言う。
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護る者
茂
土蜘蛛が寄った大男。図体のわりに口が重く、いつもハルのうしろに半分隠れるように立っている。
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剥ぐ者
アデル
オーストリアから来た、金髪碧眼の女。濡れ女が寄り、水の中で伸びる長い金髪で、怪異を雑巾のように絞りだす。雨の晩が好き。「雨の晩は、からだが軽いデスネ」。
下町の人びと
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鳶の頭
源さん
江戸っ子で喧嘩っ早いが、情に厚い。千代の飲み仲間で、「お千代」と呼ぶ。怪異騒ぎにも首を突っこむ。
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煮売り屋の女将
おかつ
町内の噂なら何でも知っている。噂はいつも「直に聞いた」から始まり、声を落とすときほど町じゅうに聞こえる。千代は店につけをためている。
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カフェー鈴蘭の女給
加代
千代のハイカラ仲間。千代の真似をして耳隠しに結うが、まだ鬢がふくらみすぎる。「ゴンドラの唄」を口ずさむ。
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飴売り
朴さん
太鼓を叩いて飴を売り歩く。鋏と指先で鶴や天狗の面をこしらえる飴細工の名人で、日本語の冗談がうまい。「飴は舐めてもいい。けど、世間を舐めちゃいけない」。
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苦学生
金東洙
昼は土工、夜は夜学。教科書で覚えた丁寧すぎる日本語を話す。夢は、国に帰って教師になること。
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活動写真の弁士
辻本と写し
浅草六区・千鳥館の看板弁士。口が悪いが情がある。龍に影を抜かれ、その跡に寄った「写し」は、辻本の語りを聴くのが何より好きな怪異。
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長屋の餓鬼大将と飼い犬
秀坊とはやて
数え九つの餓鬼大将。拾った痩せ犬のはやては、龍に声を抜かれて吠えられない。
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畳屋
作造の一家と座敷童
東北訛りの畳屋・作造と、かみさんのお梅、太郎とお時。家には、お時といちばん仲よく遊ぶ座敷童が棲んでいる。
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質屋・在郷軍人
大黒屋の旦那
日露の戦で旅順を攻めたのが自慢の、けちな質屋。合わない入れ歯。余所者が大嫌い。「商売ってのはな、釣ってなんぼだ」。
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どじょう屋の老夫婦
弥之助とお染
かすれて読めない看板の、間口一間半のどじょう屋。この店では、誰も誰の昔も訊かない。寡黙な清一が、ただひとつ通う店。
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牛鍋屋の親子
兵衛とお花
口数の少ない頑固親父と、よく笑う娘。討伐帰りの組の打ち上げは、いつもこの店。珠は生の肉をねだる。